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【災害と気象情報 vol.7】「気象災害ゼロ」の社会に近づくには

こんにちは。渡邉です。

今日はこれまで概念的に整理してきた(つもりの)
「災害と気象情報」編の総まとめです。

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■気象災害ゼロの社会に近づくには
オーストラリアの自治体や農家を例として、気象情報の利用時には能動性が求められることを指摘してきました。この能動性は、災害の特質に照らし合わせても妥当なものであると言えます。

災害は2つの条件が重なって発生するという議論があります。一つは地震や集中豪雨といった現象そのもので、「外力」又は「誘因」と呼ばれます。一方のものは、災害に対する私たちの社会の弱さ(地形などの自然的なものに加えて、社会状況などを含む)であり、こちらは「脆弱性」や「素因」と説明されます。

水害という例を使って簡単に言うと、社会の側の脆弱性によって、同じ雨量(同一の外力)でも被害の発生の仕方が変わります。例えば排水設備の整っていない地域で1日に100ミリ降る場合と、洪水対策のインフラが整備された地域で1日に100ミリ降る場合では、前者の地域が水害になる可能性が高いわけです。この例では脆弱性を都市インフラの面から述べましたが、人口や建物の構造のほか、気象情報の整備状況や事前の警戒情報システムの有無などの社会的な要素も脆弱性を構成する要素です。

大雨そのものが即、災害に結びつくのではありません。水害や土砂災害は、「気象条件」と「脆弱性」を掛け合わせた結果です。

こうした特質をもつ災害に備えるためには、気象情報をただ見るだけでは不十分で、地域の脆弱性(あるいは個人の脆弱性)を踏まえたうえで、気象情報の中から自分にとって必要な情報を能動的に見極めることが求められるわけです。

住んでいる地域や自分の置かれた状況に関するローカルな知識を気象情報の利用者が積極的に利用して、気象情報の中から必要な情報を読み取っていけるようにすること。これが気象情報を有効に利用しながら個人や社会の防災力を高めていくことにつながっていきます。「気象災害ゼロ」の社会に近づくには、気象情報の伝達・受信といった形式的なやり取りの一段階上を私たちは目指さなければなりません。

(「雨の降りやすいところ・降りにくいところでの『大雨』 」に続く)
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(参考文献)
・牛山素行著、『豪雨の災害情報学』
・「気象災害ゼロ」は気象研究所の荒木健太郎氏の言葉です。