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【フィリピン】2013年台風30号の高潮被害と発生のメカニズム

こんにちは。渡邉です。

フィリピンの台風被害から1年が経過しました。
今日は2013年台風30号(ハイヤン)で起こった高潮被害とそのメカニズムについてです。

この災害では、死者は6,000人強、行方不明者も約1,800人に上りました*1。

レイテ島のタクロバン(Tacloban)では約2,500人の死者が出ましたが、
この約92%にあたる約2,300人が高潮によって亡くなったという推計があります*2。

台風によってもたらされた風や高潮とTaclobanの位置関係を示した図が下記のものです*3。
風を示す矢印が反時計回りに回転し、島の上にある台風の中心に吹き込んでいます。
台風30号による風と高潮(Surge)の高さ(m)






















高潮は台風による2つの効果(「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」)によって引き起こされます。

「吸い上げ効果」と聞くと、台風が巨大な掃除機のようになって、
海面を吸い上げているような印象を受けますが、実際は海面を押す空気の力(気圧)が
台風によって低くなり、気圧の高い部分よりも海面が持ち上がることを意味します。

台風30号がフィリピン中部に上陸した11月8日、台風の中心気圧は895hPaでした。

気圧が1hPa(ヘクトパスカル)下がると海面が1cmあがると言われており、
吸い上げ効果だけでも概算で1メートル以上、海水面が高くなったものと推測されます。

一方、台風の強風で水が湾の奥の方に吹き寄せられるのが「吹き寄せ効果」です。

台風30号の際の風向きと最大風速(km/h)を示したのが以下の図です*4。

緑色の線が台風30号が通過した経路で、そこから北側では風が東から西へ、
南側では西から東へと吹きました(台風は反時計回りの渦のため)。

台風30号による風の強さと風向(推計)























タクロバン付近の225km/hの風を秒速に直すと62.5m/sです。
風だけで見れば台風の経路から見て南の地域で231km/h(約64m/s)を記録した場所があります。

しかし、台風の経路の南側では、陸地から湾に向かっていく風向だったため、
湾から陸地に向かって風が吹いたタクロバン周辺とは異なり、
高潮被害は相対的に小規模でした(下図参照*1)。

浸水の発生エリアと浸水深(m)
赤や緑のエリアに比べ、青のエリアの浸水深は小さい























このように、台風の通り道や風向きに対する位置関係などの条件が重なって
タクロバン周辺で甚大な高潮被害が発生した訳です。

今日は台風による高潮の仕組みの説明でしたが、
次回はコミュニケーションの視点から振り返っていきます。


(引用文献)
*1:国土交通省作成資料「台風 30 号(フィリピン)の被害概要について」 
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/r-jigyouhyouka/dai04kai/siryou6.pdf
*2:ドイツ国際協力公社(GIZ)発行の報告書(Assessment of Early Warning Efforts
in Leyte for Typhoon Haiyan/Yolanda)のp. 49
http://www.preventionweb.net/files/36860_36860gizassessmentofearlywarningyol.pdf
*3:同上、p. 14
*4:同上、p. 12